【書評のようなもの】賀茂道子『GHQは日本人の戦争観を変えたか』(ウギップ)

 2022年6月16日、インターネット・エクスプローラーが終了する!!
 ノストラダムスIE終了を予言していたんだよ!!

 な、なんだってー!?

 日経新聞によれば国内では3月時点で約5割の企業がIEを使っているほか、特に公的機関のサイトでも対応が遅れている…。
 俺たちはIE専用サイトを開けなくなってしまうのか。「そっ閉じ」以前にサイトが開けないなんて、どうすればいいんだよ、キバヤシ!!

 俺にだって分からないことぐらい…ある…。
 …ググったら分かった。俺たちはとんでもない考え違いをしていたんだ。Edgeの「IEモード」を使えばいいんだよ!!

 おい…待てよ…。何言ってんだよ、キバヤシ!!
 Edgeなのはいけないと思います!!
 
 さて、「インターネット・エクスプローラー」は必殺技のようであるが、「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」(ウギップ)もまた必殺技のようである。
 ウギップという「この政策を初めて世に知らしめたのは、文芸評論家の江藤淳である」…「GHQは検閲という手段で言語空間を閉ざしたうえでこうした情報発信を行い、さらには東京裁判によって連合国の正義を押し付けた。これにより戦後日本の歴史記述のパラダイム転換が起こり、そのパラダイムを戦後も固く守り続けたために、日本人は間接的に洗脳された。これが江藤の主張である」(p.15)。ただし「洗脳」であると文が鮮明に主張しているのは江藤淳というよりは高橋史朗らである。
 賀茂氏が指摘するように「日本人が『ウォー・ギルト・プログラム』によって洗脳されたか否かを、実証するのは容易ではない。洗脳言説を検証するためには、まず『洗脳』という言葉の定義から始めなければならない。通常『洗脳』とは強制的な思想改造を指し、その過程で暴力や監禁、感覚遮断、賞罰といった手段がとられる。むろん、占領期にこうした強制的な手段がとられた事実はない」(p.18)…。とはいえ「おそらく、保守論壇で言うところの『洗脳』は、こうした心理学的定義に基づいた厳密なものではなく、戦前とは異なる考えを持つに至った程度のライトなものを指しているのだろう」(pp.18-19)というのは、保守論壇を肯定的に捉えすぎている。換言すれば、賀茂氏は常識的で真面目な"普通の研究者"ということである。
 非常にしつこい中においてですね、あのー、しつこいと言ったら非常に…何回も何回も熱心に言ってこられる中にあってですね。いわばまさに保守論壇は「あなたは洗脳されている!目覚めよ!」「シロウのデムパ気持ちよすぎだろ!」「ウギップは定説です。それはマッカーサーの勝手なんですよ」「伝えられよ!」レベルなのである。かつてオウム真理教は「真珠湾攻撃ルーズヴェルトの陰謀であり、戦後の占領軍は『3S政策』で日本人を洗脳をした!目覚めよ!修行するぞ!修行するぞ!修行するぞ!」とデムパを飛ばしていたが、保守論客はポストオウムのへんないきものであるといえる。
 なお、能川元一氏がウギップ論について「洗脳の効果が戦後70年も持続するのはおかしい」と指摘し、シロウは「それに対してきちんと反論する」としていた。だが、シロウは「洗脳」の効果について説明していない。「洗脳」という「そういう言葉のアヤについては、私はそういう文学方面はあまり研究もしてないので、良くわかりませんから、そういう問題についてはお答ができかねます」ということなのであろう。
 また、ウギップは「逆コース」を「そっ閉じ」した主張である。賀茂氏も方針転換について指摘している。「NSC13/2という文書は、日本占領方針の重点を、日本を共産化させないために経済復興へと移すことを明記した、『逆コース』への転換を促した文書」であり、それが米国国務省で議論された時期は「『ウォー・ギルト・プログラム』を支えていた、軍国主義を排除して日本を民主化するという占領基本方針自体が、何をおいても経済復興することへと転換する過程にあったのである。この後、予定されていた第二次東京裁判は中止となり、裁判を待っていた岸信介らのA級戦犯は釈放されることになる」(p.178)。岸ぴょんがんばれ!岸ぴょんがんばれ!逆コースよかったです!
 ウギップは、新たな段階(第三段階)への提言は出されたものの、方針が変わり、細々と継続されたにすぎなかった。「江藤は、途中で方針が転換され、実施されなかった第三段階への提言書に依拠して『ウォー・ギルト・プログラム』を評価したことになる」…「『ウォー・ギルト・プログラム』に関しては、基本であるCIE週報すら検証せずに結論を出す、かなり杜撰な論考である」(p.181)…。「1970年代に入り次第に日本の加害責任を問う声が大きくなったことに不満を持っていた江藤にとって、1982年の教科書問題とそれに続く近隣諸国条項、そしてこれに伴う鈴木善幸首相の土下座外交は、衝撃的な事件であった」(p.184)…。江藤はシロウ化してデムパを飛ばすようになったのである。ウギップ!!

 

引用文献
賀茂道子(2022)『GHQは日本人の戦争観を変えたか 「ウォー・ギルト」をめぐる攻防』光文社