「古来『陰謀論』と位置づけられる言説は数多いが、『シオン長老の議定書』(あるいは「プロトコル」、以下『議定書』と略)はそのなかでもおそらく最も世界中に拡散し、また様々な陰謀論に影響を与え、その源泉となった『偽書』である」…「近年ではインターネットという新たなメディアを通し、いかようにも解釈される節操のない無国籍文書となっている」(p.189)。「『議定書』は日本においても欧米に伝播したのと同時期に、大正末期から昭和にかけて翻訳、紹介され、大量に出版された」(p.190)…「日本における反ユダヤ主義の伝播の契機となったのは、ロシア革命とシベリア出兵であった」…「要するに日本では外来思想の脅威を説明するために、外来イデオロギーとしての反ユダヤ主義が導入されたのである」(p.198)。吉野作造は「ユダヤ人の陰謀という誤解が当時の日本人の間で信じられている状況を嘆き、『議定書』の作者が民主主義、自由主義、男女平等、普通選挙運動といった『新思想』を危険視し、さらには国際連盟や平和運動など自由、進歩、平和の目的を持つあらゆる運動を『ユダヤ=フリーメーソン』の汚名とともに排斥する事が根本目的の『驚くべき頑迷な反動思想』であると指摘した」(p.205)…。あっ…(察し)。
引用文献
高尾千津子(2017)「ユダヤ陰謀説 日本における『シオン議定書』の伝播」小澤実編『近代日本の偽史言説』勉誠出版