梁英聖氏の『日本型ヘイトスピーチとは何か 社会を破壊するレイシズムの登場』によれば、日本のヘイトスピーチ頻発状況をもたらした社会的要因は「①反レイシズム規範の欠如、②『上からの差別煽動』、③反歴史否定規範の欠如と歴史否定の煽動、の三つの要因に整理できる」(p.23)という。③の「歴史否定の煽動」は、日本会議の高橋史朗氏などが主導しているものである。「ヘイトスピーチがもつ①反人間性、②暴力のひどさはあまりにも明瞭なため、ほとんどだれにでも見えるが、ヘイトスピーチの核心部にある③レイシズム、④歴史否定のひどさは」(pp.44-45)見えにくく、反論しにくい。「九〇年代以降、政治空間からの歴史否定の頻発が」(p.270)差別煽動を補強し、また、反歴史否定規範がないため「歴史否定の台頭に対して、まったくと言っていいほど歯止めがかからなかった」(同上)。「一九九六年には、『新しい歴史教科書をつくる会』(つくる会)が発足」(p.277)し、高橋史朗氏らの運動が活発になった。1998年には小林よしのり氏の漫画『戦争論』がベストセラーになるが「同著で攻撃対象となったのは、『慰安婦』被害者だった。メディアによる歴史否定の商品化とその成功は、商品と市場の力を通じてレイシズムを煽動する先がけとなった」(p.278)。「ヘイトスピーチ頻発をくいとめるには、反歴史否定の規範形成」(p.300)が不可欠であり、高橋史朗氏らを批判することが重要である。