『徹底検証 日本の右傾化』は、「右傾化」を多角的に検証している。以下、興味のあるところを引用しぐさ。
塚田穂高氏は「自国・自民族の文化的独自性を表出する思想を『文化ナショナリズム』といい、日本人論・日本文化論として展開してきた」…「1980~90年代ごろから」「日本人論・日本文化論のなかで、日本の『霊性』や宗教的独自性を論じる『霊性知識人』が目立ってきた」…「これらは文化論の一つにすぎないが、その延長線上に今日の『日本スゴイ』論が接続している」(p.378)と述べている。
早川タダノリ氏は「周辺国とりわけ中国・韓国への憎悪を交えて『日本スゴイ』を謳う本も存在する」(p.243)と指摘している。そうした「『日本スゴイ』本には、いわゆる『自虐史観』からの脱却というイデオロギーが共通して流れている」(p.245)のであり、「東京裁判やGHQによる『洗脳』の告発とも連結している」(p.246)。
能川元一氏は、WGIP論(江藤淳氏の陰謀史観)について「大きな問題は、WGIPの効果についての江藤の主張にある」(p.260)…「“現在”においてこそ効果を発揮しているとする江藤の主張には実証的な根拠がまったくと言ってよいほど欠けている」(p.261)と指摘。「小林よしのりの『戦争論』が『WGIP』論を紹介したことは、少なからぬ影響力を持ったと思われ」(p.261)、「在特会の主張する“在日特権”がWGIPに起因するものとされている」(p.262)がWGIP論は限定的にしか受容されなかった。しかし「近年になって、『WGIP』論をとりあげる論者、媒体の多様化が始まっている」(p.263)。特に高橋史朗氏の「『WGIP』論は陰謀史観として群を抜いて壮大であり、右派が重視する他の論点をも包含する体系性を持っている」(p.264)。…高橋史朗氏はトンデモ本『「日本を解体する」戦争プロパガンダの現在 WGIPの源流を探る』(2016年)で『タヴィストック洗脳研究所』や『新版300人委員会』を引用し“家族を核とする共同体精神を取り戻す”ために親学が必要だとしている(親学史観)。
樋口直人氏の調査では、排外主義運動の「活動家たちに共通していたのは、もともと自民党に投票するなど政治的に保守的なことだった」(p.74)という。「『正論』や『WiLL』といった右派雑誌は、今や近隣諸国バッシングなしには成り立たない」(p.76)…「この右派論壇の主張を薄めたものがインターネットで出回るようになり、雑誌を読まない層にも広がっていった。排外主義の活動家たちは、こうした情報に接して感化され、在特会の主張を受け入れていくようになる」(pp.76-77)。
高史明氏は「インターネットでは、在日コリアンに対するレイシズムが蔓延している。このレイシズムを考える上で」「『古いレイシズム』と『新しいレイシズム』の概念が有益である」(p.37)としている。「古いレイシズム」は“マイノリティは能力的・道徳的に劣っている”といった信念に基づき、「新しいレイシズム」は“差別は存在しないのにマイノリティは差別に抗議し特権を得ている”という信念に基づいている。「インターネット上で飛び交う『在日特権』という言葉」「を考えると『新しいレイシズム』の役割も見逃すことはできない」(p.38)。高史明氏がツイッターの投稿(2012年11月~13年2月)を定量的に分析した結果、「『新しいレイシズム』に関わるツイートには、ハッシュタグを用いて話題を共有しようとする投稿が多かっただけでなく、『拡散』を呼びかけるものも多く見られ」(p.44)、「『新しいレイシズム』に関しては、歴史問題における日本の加害性を否定することで、在日コリアンが日本に居住する権利に疑問を投げかけ、彼らが日本で社会保障を受けることを『不当な特権』と糾弾するものが多かった」(p.46)。
斉藤正美氏は、家庭連合(旧統一協会)の結婚や家族をめぐる動きを検討している。家庭連合の「同性愛批判の根拠は、『結婚とは男女によるものであって、それはその間でしか子供が生まれないからだ』(八木秀次麗澤大教授、『世界日報』2015年10月24日付)という点にあるのだろう」(pp.209-210)と考えられる。
鈴木エイト氏によると「2015年8月、文化庁はそれまで拒んできた統一教会からの名称変更申請を受け取り、『世界平和統一家庭連合』への教団名変更を認証した。その際永田町では、ある噂が掛け巡った。文科相(当時)の下村博文が強引に認めさせたというのだ」…「安倍晋三の他の側近も、親密な関係が発覚している。2009年以降、稲田朋美は世界平和連合の他、同じく統一教会系団体の世界平和女性連合の大会でも講演した」(p.346)…「世界戦略総合研究所の定例会では高橋史朗、伊藤哲夫といった日本会議のコアメンバーらも講演をしている」(p.347)…。日本会議は、生長の家信者の学生運動が源流であるが、「統一教会の上層部には日本会議の会員も多く、『世界日報』の読者で構成され、保守系知識人を招いて定期講演会を行っている世日クラブにも、日本会議関係者が多数いる。両者は様々な関連組織を通じて交流している」(p.347)。ちなみに統一協会によると親学批判者は「文化共産主義者」で、幸福の科学(の関係者)によると「左翼が親学をトンデモ扱いしてる」とのこと…。
藤倉善郎氏は「幸福の科学のナショナリズムが目指すものは大川総裁を地球至高神『エル・カンターレ』とする宗教国家日本の繁栄だ」…「こんな幸福の科学に対し」「保守運動が、一部であるとは言え、手を組んでいる。幸福の科学は、世の右傾化の一端を担っているように見えて、実は保守運動の思想的な空洞化をよく示す存在でもあるのかもしれない」(p.360)と述べている。あっ…(察し)。