【書評のようなもの】山崎雅弘『日本会議 戦前回帰への情念』

 山崎雅弘氏の『日本会議 戦前回帰への情念』を読み終えたので書評のようなものを書いておきたい。この本は、島薗進氏が推薦しており、「安倍政権を支える日本会議の思想と価値観を鋭く分析した好著」(推薦文)である。島薗進氏は「日本会議などが『伝統』というときに『国体』という観念が一番重要」(島薗 p.121)だとしている。「日本の国体思想は華夷思想の日本版で、「日本的華夷思想」」(同上 p.128)である。現在、「中国、韓国、日本は東アジア的な権威主義の方向へ流れて」(p.129)いる。官僚組織や経済組織にとって「『団結を強めて意思決定を容易にし、国力を高める』という考え方の方が有利」(同上 p.130)という点もこの風潮に貢献している。「1930年代から15年間のような体制に日本が戻ることは考えにくい」(同上 p.131)が「そこであったような『傾向』が出て」「伝統なるものに則って全体の秩序を尊ぶことで、人権や精神の自由が抑圧されていく」(同上)…。
 山崎雅弘氏は、神社本庁日本会議が「天皇の『御親拝』復活よりも、靖国神社への合祀という形式でなされる事実上の『東條ら戦前・戦中の国家指導者の名誉回復』の方を優先しているようにも解釈でき」(山崎 p.93)ることを指摘する。「日本会議の論客は」「戦前・戦中の『天皇中心の国体を守る』ことがすなわち『国を守る』ことになるのだと主張してい」(同上 p.99)るが、「天皇に空前絶後の恐怖と屈辱を味あわせた最大の責任者は、対米英開戦時の首相であった東條英機」(同上 p.101)である。この点を日本会議は誤魔化している。また、「日本会議は『神武天皇以来125代』の天皇を中心とする社会構造を疑問の余地なく『日本の伝統』そして『歴史的事実』と見なす、戦前・戦中の価値観への回帰を理想として掲げてい」(同上 pp.127-128)るが、ここで注目すべきは彼らが「天皇の地位が戦前も戦後も変わっていないかのように述べている点」(同上 p.128)である。GHQは「アメリカの占領統治に有用だからという理由で、天皇を存続させ」(同上 p.129)たが「日本会議の論客が語る日本の歴史には、こうした天皇の地位や処遇をめぐる葛藤や反省は、ほとんど見られ」(同上)ない。そもそも「戦前・戦中の国家体制は、最終的には」「『国の破滅』に近いところへと日本を導」(同上 p.244)いたのであるが、日本会議は日本を「破滅」へと向かわせたいのだろうか…。

 

引用文献
島薗進(2016)「神社と国家の関係はどう変化したか 宗教学者 島薗進インタビュー」『週刊金曜日』成澤宗男編 『日本会議神社本庁』金曜日
山崎雅弘(2016)『日本会議 戦前回帰への情念』集英社