原田実氏の『江戸しぐさの終焉』(2016年,星海社)では「親学」も取り上げられている.原田氏によると「江戸しぐさ」を教育現場で広める上で活躍したのは「親学」を提唱した高橋史朗氏である.「親学」とは「脳科学の知見を踏まえ,日本の伝統文化に基づいて子供の健全な発達をうながすために,親の役割を見直そうという考え方である」(p.97)とされる.その「親学」は伝統的子育てなるものを推奨するが「『江戸しぐさ』をその伝統的子育ての歴史的根拠に位置づけ」(p.105)ているのである.そして「高橋氏が依拠する脳科学の『権威』は澤口俊之氏,森昭雄氏,福島章氏といった面々で」(p.107),根拠は不確かである.さらに「親学」に関する書籍には「サムシング・グレート」(インテリジェント・デザイン論の焼き直し)まで登場する.そのため原田氏は「根拠の不確かな『脳科学』や科学を装った宗教である『サムシング・グレート』の導入により,親学は疑似科学としての性質を持っている.さらに,歴史的由来を偽史である『江戸しぐさ』に求めるとなると,親学はまさにトンデモの総合商社の感がある」(pp.110-111)としている.