【書評のようなもの】中島岳志・島薗進『愛国と信仰の構造』

 中島岳志氏・島薗進氏の『愛国と信仰の構造 全体主義はよみがえるのか』(2016年,集英社)を読み終えたので,気になったところを引用しておく.島薗氏は「1990年代の『新しい歴史教科書を作る会』や近年のネット右翼などは,一見,宗教的とは見えない政治的ナショナリズムが前面に出ていますが,それらを下支えしているものは,天皇崇敬と国体論を核とする戦前の国家神道という枠組み」(中島・島薗 p.173)だと指摘する.そして「グローバルな点から見ると,ネット右翼の台頭の理由は,宗教ナショナリズム原理主義が世界的に存在感を強めている理由と重な」(同上 p.197)るという.中島氏は「日本会議というのは,宗教ナショナリズム運動と捉えたほうがいい」(同上 p.239)と述べる.また,島薗氏は日本の「今の宗教ナショナリズムは,世襲議員や経済力のある人々が,一部の官僚や企業リーダーをはじめとするテクノクラートと一緒になって,宗教勢力を利用している結果」(同上 p.353)と見ている.
 日本の右翼勢力について原理主義に着目した議論は,以前からいくつかある.例えば,三宅明正氏は「『つくる会』にシンパシーをもっている人たちと話をすると,『反日派』とか『いま日本は反日包囲網の中にある』とか,そういう言い方がぽんぽんと飛び出してくる」「『反日包囲網』なる敵を設定して,国内外のさまざまな矛盾を,国外国内の『反日派』に転嫁していくということが行われる」(三宅 p.48)とし,「『自国の歴史を取りもど』し,『国民形成』の物語を創出しようとする日本の動きに照応しているのは,いわゆる原理主義の台頭ではないだろうか」(同上 p.92)と述べている.田中伸尚氏も「自由主義史観」を支える土壌の一つとして「世界的に強くなっている原理主義の影響力」(田中 p.263)を挙げている.稲垣久和氏は「グローバルな宗教的原理主義の台頭に呼応して,靖国を日本人の『心のふるさと』に仕立てあげるような国粋主義的ネオ・ナショナリズム――靖国原理主義――が台頭してい」るのであって「中国や韓国の『反日ナショナリズム』に対抗した正当な『日本のナショナリズム』,といった衝突の図式をつくる愚かさをやめるべき」(稲垣 p.119)としている.また猪野健治氏は,櫻井よしこなどの保守論客は「つねにアメリカを意識し」「キリスト教原理主義的な発想」(猪野 p.260)があると見ている.

 

引用文献
中島岳志島薗進(2016)『愛国と信仰の構造 全体主義はよみがえるのか』集英社
三宅明正(2002)『世界の動きの中でよむ日本の歴史教科書問題』梨の木舎
田中伸尚(1998)『さよなら,「国民」 記憶する「死者」の物語』一葉社
稲垣久和(2006)『靖国神社「解放」論』光文社
猪野健治宮崎学(2007)「巻末対談 なぜ右翼は生まれ,どこに向かうのか?」宮崎学『右翼の言い分』アスコム