【書評のようなもの】パオロ・マッツァリーノ『みんなの道徳解体新書』

 読売新聞(2007年3月5日)の記事で養老孟司氏は、日本人の「モラル低下の最大の要因は戦後、欧米流の個人主義がもてはやされ、『家』制度が崩壊したことにある」(p.150)などと高橋史朗氏のようなデムパを飛ばしていた。「統計調査などの根拠もなしに、個人主義だの家制度だのといったあいまいな理屈で説明したつもりになってしまうのは、非科学的な態度」(p.152)。「史料をもとに客観的に歴史をふりかえると、日本人のモラルや道徳がむかしに比べて低下したという証拠は見つかりません。むしろ向上したことを示す例ばかり」(p.153)。「戦前の日本人の公共道徳は」「ヒドかった」…「汽車の中の床にゴミ」…「バナナの皮なんかも床にポイ捨て」(p.156)。ポイ捨てしぐさ。「戦前の新聞にはたびたび、日本人の公共道徳心が低いことを批判する記事が登場します。養老さんは欧米の個人主義をモラル低下の原因と決めつけてますけど、戦前の新聞記事や社説の論調は真逆です。欧米人のマナーのよさを日本人は見習うべきだと主張していることが多い」(pp.156-157)…。「戦後日本人のモラルが低下したとする説は、なんの根拠もない俗説にすぎません。欧米流の個人主義も家制度の崩壊も、モラルの有無とはまったく関係ありません」(p.158)。高橋史朗氏、オワタ。

 

引用文献
パオロ・マッツァリーノ(2016)『みんなの道徳解体新書』筑摩書房