「ネット右翼」と新聞報道②

 ここでは2010年代の新聞記事をいくつか取り上げたい.

 2013年10月6日の毎日新聞(東京)朝刊では,『保守論壇亡国論』(山崎行太郎)が紹介されている.山崎行太郎氏は「保守の立場で発言している論者である」が保守論壇に対し「『わかりやすいお題目を集団で唱和する』ことが保守なのかと厳しく問う.ネット右翼,漫画右翼の氾濫は,保守論壇が『愚者の楽園』と化してしまった証左である」と指摘する.「俎上に載せられたのは,櫻井よしこ中西輝政渡部昇一西尾幹二らの各氏」である.
 2014年10月2日の朝日新聞朝刊では,樋口直人氏が次のように述べている.「2011年から1年半かけ,在日特権を許さない市民の会(在特会)の活動家ら34人に話を聞いて」「実像が見えてき」た.彼らは社会階層が低いわけではなく,「学歴では大卒(在学中・中退を含む)が24人」「雇用形態も,正規が30人に対して非正規は2人」「職業をみるとホワイトカラーが22人、ブルーカラーは6人」であった.「『移民が増えると摩擦も増え,排外的な運動が広がる』というのは欧州の定説」だが,日本の排外主義運動の場合は違うという.「摩擦がなかったどころか,日常生活で外国人との接点すら持っていない人がほとんどで」「在日コリアンの実情をほとんど知らない人々が起こした運動だった」.そして彼らの「情報源になったのが右派論壇」であり,「『嫌中憎韓』は右派月刊誌レベルでは00年代前半に始まっていた.つまり右派論壇が垂れ流した排外的な言説を,ネットが借りてきてデフォルメし広げた.さらに00年代後半に登場したネット動画が,憎悪を行動に転換させた.憎しみはヘイトスピーチという形で街頭に飛び出していった」のである.
 2015年3月26日の朝日新聞朝刊では,小熊英二氏が「ネット右翼」への対処法を論じている.それによれば,まず「2007年の辻大介氏らの調査では,その数はネット利用者の1%に満たない」のであり「『ネット右翼』の数を過大視すべきではない」という.そして「この種の言説の意図を真剣に考えすぎるべきではない」「反論は逆効果で,無視するのが一番だ」と述べる.しかしながら「この種の言説の広がりは深刻な問題だ.個々の言説に大した意味がなくとも,その蓄積は,『ああいう発言をしてもいい』という空気を醸成する」と指摘する.また,こうした言説に「個人で逐一反論するのは,効率も悪いし,相手を喜ばせかねない.簡単な問題ではないが,一つの対処法は,ネット管理者に対応を要請することだ」という.
 2015年11月8日の朝日新聞朝刊では,荻上チキ氏が『レイシズムを解剖する 在日コリアンへの偏見とインターネット』(高史明)の書評を書いている.本書は「『古典的レイシズム』と『現代的レイシズム』という二つの概念を軸にして分析を」する.「『〇〇は△△人より劣っている』といった『古典的レイシズム』の影響力は,未だに軽視できない.加えて現代では,『差別は既に解消しているにもかかわらず,彼らは自分たちの努力不足による結果による“区別”を受け入れないどころか,不当な特権を得ている』という考えに基づいた差別的言説も蔓延している」のである.そして「現代的レイシズムは,誤った情報の取得などによって強化されうる」もので「『2ちゃんねるまとめブログ』を利用することで加速する可能性がある」という.「誤情報に触れる機会が多いほど偏見が深まるのだとすれば,そうした情報を放置せず,メディア上で丹念に検証・否定していく作業がいかに重要かがわかるだろう」.